第一章②
- 藤ノ樹
- 2020年1月27日
- 読了時間: 18分
更新日:2020年2月2日
「ようこそ、オルコ村へ。こんな辺境からの依頼にわざわざ応じていただいて恐れ入ります。」 村長の家に訪れると開口一番、いや邂逅一番ロワーブたち5人パーティはそう声を掛けられた。思っていたより若い村長で、30代くらいの男である。陰気で目つきが悪く長い髪を整えずぼさぼさに伸ばしている人族の男だ。全体的にやせ細っていて縦長い印象を受ける。この村は人族ばかりの村のようで、村人たちは獣人族だけのロワーブのチームを見ると珍しそうに眉をひそめている。 「あー、そうっす。ロワーブ・ファングロウっていいます。魔獣討伐の依頼って聞いたんですけど…」 「ええ、ええ…私はクリフ・ベルジリー。村長をやっております。依頼ですが、この村から北へ1キロ弱進んだ場所に遺跡があるんですが、そこに魔獣が住み着いたのです。ですので処理していただきたいのです。」 「その魔獣というのは?」 カトナーが質問を挟む。 「わかりません。目撃した村人から聞く情報はいつも曖昧で…矛盾を感じるのです。」 「矛盾ってなによ?」 ラパンも応答に参加してくる。グラハムとテンソは黙してやり取りを眺めている。 「いえ、角が生えているとか…頭が丸い人型の魔物だとか…食い違う部分が多すぎるのです。」 「んー…そういや、俺らの前に行った冒険者らは?」 「3人組の冒険者ですが、彼らは未だ帰ってきていません。一昨日のことですからまだ討伐しきっていない可能性もありますので、加勢をお願いしたいのです。もちろんその場合は双方に報酬を支払います。不平の無いようにいたします。」 「うちらもここまで頑張って来たんだから、報酬ははずんでよね!…他になにか出せる情報とか無いの?」 「…ありませんね。」 「そういえば、今までも魔獣が住み着くことがあったんですか?その遺跡に」 「はい、ございました。その度に冒険者の方に討伐に来ていただいてるんで、いつも申し訳ない限りです。」 陰気な村長は表情を変えずにそう語る。 「その際には冒険者の方々は問題なく依頼を終えて帰っていきましたか?」 カトナーがそう質問を重ねる。 「はい。皆様討伐を終えて、報酬を払い、帰路についていきましたよ。」 「ん?おかしくね?だって御者n…」 ロワーブがそう言いかけた時にカトナーが手を挙げて制止する。 「この村にも御者が駐在してるって話を聞いたんですけど、帰り道はその方に皆さん依頼されてるんですか。」 「ええ、そうですよ。」 「でしたら一言挨拶しときたいんですが、居場所を聞かせてもらっても構いませんか?」 「今は御者は、村人を送り届けるので出払っているので…残念ながら…」 「…わかりました。遺跡には今日はもう遅いので明日の朝向かおうと思うんですが、案内の方かもしくは地図みたいなものってお借りすることってできますか?」 「はい。明日は私が直接お送りしますよ。宿の方もすでに手配しております。」 カトナーとベルジリーの応酬がしばらく続いた後、カトナーは他のメンツを連れて民宿へ向かうように促した。 民宿に着き各部屋に案内された後、彼らはロワーブの部屋に集合し話を進める。 「悪いなカトナー。やっぱああいうのはお前がやってくれたらスムーズに進むわ。」 「いいのよロワ君。適材適所ってやつです。」 「でもでもどういうこと!?なんか御者のおじさんとさっきの村長の話食い違ってない?」 ラパンが食いつくように自分がずっと抱えていた疑問を口にする。 「……あの村長、見るからに怪しいな。」 「この村の御者さんに話が聞けたらよかったのに~タイミングも悪いよねぇ。」 テンソもグラハムもそれぞれが謎に感じていることを口に出す。 「ずっとあたし思ってたんだけど、こんな立地でそもそもどうやって生活してんのよ!?近くに農業をしている気配も無ければ、狩りをしているとしても村人たちはあまりに貧相…道具も見るからに無い。この村自体なんかおかしくない?」 「うーん、わけわかんねっ!でも村人たちが困ってるって言ってんだったら、魔獣は掃除しなきゃなんねーだろ?変な村なのは確かだけどよ、それとこれとは別で考えようぜ?」 「ふむ…とにかく、明日は警戒を怠らずに討伐作戦に臨みましょう。何が起こるかわかりませんからね。」 そういいながらカトナーはフォンから表示される画面を何やら触っている。 「何やってんだ?カトナー」 「いえ、別に。お父様に経過報告をばと思いまして。」 「…う〜ん。村の人が何を企んでるのかは分かんないけど、移動費含めた依頼料を前払いで貰ってるんだし、最低限の仕事はしないとねぇ…。」 グラハムの言う通り、今回の依頼は稀に見る前払い制で、交通費含む依頼料は既にベルジリーから受け取っている。成果に合わせて追加報酬も出すと言っていた。(しかし、交通費に関してはトレインの普通車分の料金だが) 「そうだよな!とにもかくにも依頼を達成することだけを目標に頑張ろうぜ!怪しいとか怪しくないとかは気にすんな!」 「ああ…俺らに出来ることは、明日に向けてゆっくり休むことだけだ。」 「まぁ、それもそうね。こうやってタダで宿に泊まれたんだから良しとするしかないわね。」 「分かりました。でしたら皆さん。また明日の朝に。おやすみなさい。」 そう言うのを皮切りに各々賛同の意を述べておもむろに解散していく。そして彼らは各々の部屋に向かい、床についた。ロワーブは窓から村の様子を見ると、霧が相変わらず濃く村をまとっており高木がうっすらと映し出されており薄気味の悪さを感じさせる。明日の討伐に対しての不安は彼には無い。不確定情報が多くあるが、それでも何とかなるだろうと思っている。幸先のいいことばかりだったのも確かだが、なにより彼は仲間を信じているのだ。だからためらわない。希望を見失うつもりなど毛頭ない。 そんな覚悟を胸に目を閉じると、すぐに彼は眠りに落ちた。夢の内容は…わすれてしまった。 「おはよぉ~…ねむぃ~…こんなに朝早くに行く必要あったの~?」 グラハムが眠たそうに眼をこすりながら食堂に出てきた。 「おはよーグラハム!あんたももうちょっと早起き慣れなさいよー」 ラパンは既に本調子を取り戻しているみたいで、元気よく挨拶する。 「おはようさん!さ、飯食ったらとっとと出るぞ!」 ロワーブはもう朝食を随分食べており、テーブル上には皿が既に積みあがっている。 「先に向かった冒険者のチームがどうなってるかも不安ですし、どれほど時間がかかるかも不明ですからね。早めに向かうに限りますよ。」 カトナーは食事を済ませて昨日貰った地図を読み込んでいる。 「…だな。髪ぐらいしばってこい…。グラハム。」 テンソは武器の手入れをしながらそう言うが、彼も寝ぐせがとれていなくぴょこんとくせ毛が跳ねている。 各々朝食をとり、戦闘用の装備に着替えて荷物を整理するとクリフ村長と合流する。戦闘用の装備と言っても普段着から大きく変わるのはロワーブくらいで、他の面々は武器や杖を持っており、装飾品やら服飾が魔道具に変わっているくらいだ。クリフは朝早くとも昨日と変わらない様子で5人を迎える。 「おはようございます。皆様。準備の方は整いましたでしょうか?」 昨日と同じく陰気な表情で彼は見つめてくる。何を考えているか分からない目は見る者に不気味な印象を与えてくる。 「うっす。俺たちは準備万端っす!」 「では向かいましょう。カテルナ遺跡へ。」 「おねがいしまっす!」 一行は村を出て歩き始める。霧は深くなることもなく晴れることもなく、ただそこに停滞し続けている。遺跡までの道中少しも変化することなく高木の間を白い大気が埋めている。整地はされておらず、長く続く霧のせいで地面が若干ぬかるんでいる。冷えた大気が頬を触って流れていき、春先だというのに少し肌寒い。遺跡までの間一度も動物や魔獣に出会うことすらなく、一行は静かな森をただ進んでいく。 「ここです。」 クリフがそう言って指さした先には、もはや廃墟と呼んでもいいくらいに崩れた遺跡があった。そこらに生えている高木のものではない木が、遺跡を飲み込むように霧で日のほぼ差さない空に枝葉を伸ばしている。 「なにこれ、ほとんど廃墟じゃない!これのどこが魔獣の住処なのよ!」 「正確にはこの廃墟の地下に巣くうのですよ。その魔獣は。」 そう言ってクリフはスタスタと遺跡内へと歩いていく。 「おい待てよ!あぶねえぞ!クリフさん!」 ロワーブは急いで彼の後を追いかけていく。無意識にいつもの口調に戻っている。 「大丈夫です。私はこれでもそこそこの魔導士なので、自分の身くらいは守れます。」 「いやいや!魔導士だったらなおさら後ろに下がっててくれよ!いざって時に守れない!」 有無を言わさぬ調子でクリフは歩を進めていく。他の仲間たちも考える間もなく急いで後を追いかける羽目になった。全員が今の状況を訝しんでいた。明らかに様子のおかしい村長も、晴れない霧も、魔獣の住処のはずの廃墟のような遺跡も…だが彼らは突き動かされるように運命の歯車に従うしかなかったのだ。いくら賢い者でも、疑いを持っている者でも、彼らのリーダーである銀狼を捨て置いて歩を止めることなどできないのだ。 「ケモノというものは、短絡的でいい。こんなにシンプルな罠にもあっさりと引っかかってくれるからね。」 突然、クリフは彼らの方を振り返り、笑った。ロワーブたちの見る初めての彼の笑顔は、きわめて残忍で邪悪なものだった。 ロワーブ・ファングロウは困惑した。今まで依頼主な上に村長という肩書すら持っている男を疑うという考えが無かったから、困惑した。なんで、俺たちを罠にはめる必要があるんだと…俺たちが守護すべき依頼主が嘘をつくなんてありえないと、そんな先入観に囚われていた。だから理解ができなかった。騙されたのだと。 カトナー・ローズ・ウィリアムズは遺跡に入った瞬間その両の目ではっきりととらえた。無造作に生えていた樹には法則性があり、それは魔法陣のように機能しているのだと…そう瞬間的に判断した。だが彼女には何をすることもできない。気づいたときには…何もかも遅かった。 ラパン・グランドラグは多くの不安を募らせていた。守るべき村人たちは、疑う要素ばかりを彼女に与えてきた。もしかしたら私たちに危害を加えてくるかもしれない…そう思えていたらもっと早くに警戒して動けていたかもしれない。後悔の波が押し寄せてくるが、彼女はその波にもまれるしかなくただ虚しく堕ちるしかないのだった。 グラハム・J・フィディックスは諦念の情を感じていた。こうなってしまっては流れに身を任せるしかないのだと。未然に防ぐにしたって時間が無かったし、この状況で逃げるわけにもいかなかったから。ならば自分たちが怪我をしないようにだけ、仲間が常に万全の状態で動けるようにだけ考えて動く…そうするしか術が無いのだ…と。 テンソはただ、黙してその状況を眺めていた。考えるのは苦手だ。ただ、今、倒すべき敵を見つけられた。ならばそいつを裂くのみだ。それが暗殺者としての務めなのだから。 クリフが小さく細長い枝のようなものを取り出し何かをつぶやいたかと思うと、途端にロワーブたちの足元に魔法陣が展開しグラリと視界が揺れる。異変に気づいたテンソが真っ先にクリフの元へ駆け出すが、それでも間に合わない。魔法の発動の方がはるかに早かった。 いつの間にか足元が、無くなっていた。魔法陣の範囲内の地面がふっと消えて、彼らは真っ逆さまに暗闇の奈落の足元へと堕ちていく。 「…させるか!」 コウモリ男であるテンソが羽を開いて飛ぼうと抵抗するが、それもむなしくクリフが展開した黒い光を放つ矢に羽が撃ちぬかれる。 「ガァッ…!」 「やはりあなたが一番警戒すべきケモノでしたね。無意味な抵抗なのは確かですが。」 「テンソおぉ!」 「…!大丈夫だ。次に警戒しろ、リーダー!」 5人は為す術なく堕ちていく。光すら届かない暗闇に包まれ、いつ来るか分からない落下の衝撃に恐怖する。 「ではいってらっしゃい。カテルナ遺跡ダンジョン攻略の、始まり始まり…です。」 強い衝撃と共に彼らは地面に叩きつけられる。全身に響く痛みを無理やり無視してロワーブは起き上がり、周囲の警戒をする。まず上、左右、下。どこを見てもそこは苔むした石でできた5メートルほどの幅・高さのある回廊のようだった。薄っすらと光る細長い植物がそこら中に張っており、草の匂いが香ってくる。敵影のようなものも無く、次の攻撃が来ることもなさそうだったため一度警戒を解く。全員の一応の無事を確認し、ロワーブは少し安堵する。 「テンソぉ!大丈夫~!?」 グラハムが負傷したテンソの元に駆け付け、癒しの術を施す。 「あぁ…だ、大丈夫だ。すまん。」 テンソの羽は先ほどの黒い矢に撃ち抜かれて大穴が空いている。彼は全身冷や汗をかいており、痛そうに表情を歪めている。 「おいテンソ!無理すんなよ!当たり所が悪かったらどうするんだ!」 「いや…あいつは狙って俺の羽を撃った。正確に、丁度飛べなくなるくらいの穴を空けてきやがった…。ぜってぇ許さねぇ。切り裂いてやる…。」 「落ち着いてテン君。でも確かに、あの方の魔法の発動速度といい射出速度といい…慣れた人のやり方でしたね。」 「ちょっと!それって今までに何度もこうやって冒険者を罠に嵌めてきたってこと!?」 「だと思うよ~。罠に嵌めてどうするかは分からないけど。でもまず帰れなくなるようなことをされるんだろうねぇ。」 「じゃ、じゃああたしたちの前に来たっていう3人組の冒険者も…」 「最悪、殺されているかもしれませんね。」 冷静にカトナーは一番考えたくない可能性に触れてきた。 「俺らを殺してどうするってんだよ!?人間族が獣人族を殺したっていいことなんてねえだろ!?」 「…知らん。それか、冒険者に恨みでもあるんじゃないのか?…だが、とにかく俺らは生きて帰らなきゃらない。その為にはどうすればいい?」 「出口をとにかく探さなきゃねぇ~。魔獣に僕らを倒させるのが目的なんだったら、見つからないように抜け出たら相手の思惑もつぶれちゃうしねぇ~」 そう言ってグラハムはテンソの羽の施術を終え、立ち上がる。大穴の空いていた羽はある程度まで回復し、穴もほとんどふさがっていた。 「なるほど!だったらあたしの出番ね!」 そう言ってラパンは周囲の様子を調べ始める。彼女はレンジャーの称号をもっており、罠の探知や遺跡の調査に足跡の追跡など探索において重要な役割を担っている。兎の獣人であるラパンは非常に器用で耳がよく身軽なため、いろいろな場所を飛び回り罠を仕掛けたり周囲の状況を探ることが出来るのだ。 「その間にお父様に連絡しておきますわ。」 そういってフォンを起動させようと腕時計を触るが、それは何の反応も示さなかった。 「…動きません。これはもしかして…皆さん魔練具を起動させてみてください。」 言われてラパンを除く全員が各々の魔練具を起動させていく。が、どれも地上にいた時のようには動かなかった。 「魔道具は反応します。と、いうことはつまり…」 「ここは【ダンジョン】内ってことか!?」 ダンジョンは冒険者が次のランクに上るために潜る場所ということは前述したが、もうひとつダンジョンには特異な点がある。そこは異世界なのだ。イグサルヴの国内でもない世界線すらズレた異世界が、この国には多数発現している。それをヒトたちはダンジョンと名付け、冒険者はその未開の地を探索し様々な物資を持ち帰る。そうして冒険者はランクを上げて、ダンジョン内に危険が無いか、貴重なものが無いかを周囲の集落のヒトたちは知ることが出来るのだ。冒険者は経験を得ることが出来、国は資源を、周辺集落のヒトたちは安心を得ることが出来るため、ダンジョン攻略は人気の依頼であった。 そして異世界であるということは、アークの恩恵を受けることができない…つまりアークのマナを利用して効果を発揮する魔練具を使用することが不可能だということだ。魔道具ならば素材に使われている魔石の力で効果の恩恵を受けられるが、魔練具はそうはいかないからダンジョン内では役に立たないのだ。 「足跡がこっちに続いている…空気の流れは、こっちからか。んで、罠の気配は無い。オッケー、大体わかったわよ!」 しばらく歩き回って手探りしていたラパンは、そう言って戻ってきた。 「ラパちゃん。どうやらこの遺跡ってダンジョンみたいなのよ。」 「え、そうなの!?でもこんなとこにダンジョンがあるなんて聞いたことないわよ!?」 今広大なイグサルヴの地に発現しているダンジョンの数は確認されているだけでも500以上で、それら全てをを1人の聖人が管理している。つまり確認されているダンジョンを悪用しようとすればその聖人が介入してくるはずなのだ。それがないということはつまり非公認のダンジョンということになる。 「隠してたんでしょうね。ダンジョンを見つけたら国に報告するのが義務です。ですのでこれは立派な国家反逆罪ですよ。」 はっきりとそう言うカトナー。それを聞いていた他のメンバーは苦い表情で顔を見合わせる。 「まじかよ…俺ら結構とんでもないことに巻き込まれてるんじゃね?」 「これは早く出ないといけないねぇ…」 「なら、早速さっき確認したこと言うわね。」 ラパンはとったメモを見ながら報告していく。 「言わずもがな相当古い遺跡のようね。最近は人の手もあまり加えられてないことは、地上のあの状況を見たら理解できると思う。罠みたいなのは見つからなかったけど、魔獣はやっぱりいるみたいね、長い爪が生えた足跡がそこかしこで見つけたわ。何か大切なものを守るために建てられたにしては罠が無さすぎる…誰かが住処として利用していた可能性があるけど、はっきり言えないわ。見る限りここだけじゃ生活出来るような空間が見当たらないしね。ま、どっちにせよ異空間なんだから、こっちの常識は通じないと思うけど…!」 ほとんど独り言のようにつぶやきながらラパンはそう報告してくる。魔獣がいるということが確定したことを知った面々は改めて身を引き締め、周囲の警戒を強める。少しづつ曲線になった薄暗い廊下を歩み進めると道が2つに分岐しており、先の方は暗くてよく見えなくなっている。 「参ったわね。右手に足跡みたいなものが続いてるんだけど、そっちから空気の流れを感じる。つまり右に行けば出口に近づける可能性があるんだけど、魔獣に遭遇する可能性があるってこと。」 「左には何があるんだろうな?」 「袋小路でしたら最悪追い込まれる可能性がありますよね。」 「…敵がいても全部殺せばいいだろ。」 「テンソが怖いよぉ~!頭に血が昇ったまんまだよ~!」 「…俺らを罠に嵌めたやつは全員消してやる…。」 「おいおい落ち着けって!まあ、袋小路でもなんとかなるだろ!今はなるべく力を温存していきたいぜ。」 「私もロワ君に賛成ですわ。戦闘はなるべく避けるべきです。長期戦になるかもしれませんし。」 そう言われてテンソは眉間に寄せていた皺をやっと引っ込め、鼻から息を長く吐き出すと。 「…あいわかった。なら俺が左右どっちも一度偵察に行く…それでも問題ないな?」 「あ、ああ、助かるよ。ありがとな!でも無茶はすんじゃねえぞ?」 そう言ってロワーブは自分の肩くらいしかないテンソの頭をぽんぽんと叩く。 「…やめろクソ犬!…チッ!行ってくる。」 グイっとロワーブを振りほどきテンソは暗闇の中に駆け出していく。 アサシンであるテンソは暗闇の中での行動に長けており、コウモリ男としての彼の特性と非常に親和性が高かった。テンソは目と鼻がそこまでよくない代わりに超音波で周囲の様子を探ることが出来、いくら暗くとも物がどこにあるかを把握することが出来るのだ。 「ロワってテンソには結構グイグイいくよね~」 グラハムがいたずらっぽい笑みを浮かべてロワーブをからかうと、ロワーブは気にした様子も無く 「まーな。あいつはそんぐらいやんなきゃすーぐ距離取ってくるからなー」 「パーソナルスペースガン無視ね。ま、気持ちはわかるけどね。」 「テン君は恥ずかしがり屋ですからね。」 そうカトナーはくすくす笑いながら少しずれたことを言う。 「言っとくけど、おいらがロワと一番長いんだからねぇ~?」 「なんだよやきもちかー?グラハムー。可愛い奴めー!」 などと言いながら屈んでグラハムの柔らかいほっぺをムニムニといじり倒し始める。 「ほみゃあ~ひゃめてぇ~」 「なにやってんだお前らは…。」 そんなこんなしていると早速暗闇からテンソが帰ってくる。 「お、テンソー!早いな。どうだった?」 「右手側からは何も気配は感じなかった…100メートルほど進むと夜光草が光を放っていたから、そこからはまだ向かっていない。左側には明かりがあって扉が一つあった…が、その前に見張りのような人間が2人立っていたな。」 「人間?魔獣がいるのに人間の見張りがいるのですか?」 「ってことは人間が魔獣を使役している可能性が出てきたってこと?」 「でなければそんなところに待機はさせませんよね。その見張りがよほど強そうな人間でない限り。」 「見るからにオルコ村の人間らしい見てくれだったな…痩せていて貧弱そうだった。」 「じゃあやっぱ魔獣と村の奴らがグルだったってことだろ!?一体何のためにこんなこと…」 「何を見張ってるのかも気になるよねぇ。僕らより先に来ていた冒険者たちかな~?」 「ならいいんだけど、罠の可能性もあるわよね…?」 「ど、どうするよ?」 「後で一度戻ってくればいいですよ。とりあえず今は出口の場所を把握しておきたいです。」 「よっしゃ。じゃあ右に行くぞ。」 「じゃ、流石に暗いから明かりつけるねぇ~」 そう言ってグラハムは魔道具のバッグからカンテラを取り出し火をつける。カンテラの淡い光が周囲を照らし、見えなかった通路の先が見える。苔むしてもなく植物も張ってないむき出しの通路が露見する。 「じゃあ進むぞ。」 ロワーブが先陣を切って進む。50メートル程進んだだろうか?グルルル…というなにかの鳴き声が聞こえてくる。 「…!後ろ警戒しろ!」 テンソがそう言い終わる前にビュウッ!という風を切る音と共に巨躯の銀狼が誰よりも前に進み出る。 「配置につけっ!戦いだっ!」 ロワーブが真っ先に敵の攻撃を受ける態勢に入る。そこに一撃の鋭い爪による攻撃が襲いかかってくる。ロワーブは盾で受け止め、謎の敵影を跳ね返した。 それはゴムのような皮膚を持つ獣のような人間のような頭をした魔獣である。両手足は鋭い爪が生えており、毛はどこにも生えていない。それがさらに13体程ぞろぞろと後ろに控えているのだ。
「おいおい。これは…グールじゃねえか!」
ロワーブの叫びと共に戦いの火蓋が切って落とされる。これからの戦いは彼らが今まで経験してきたものよりも苛烈なものになるだろう。だが、彼らはあらがわなければならないのだ。生き残るために。
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